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思い煩うホワイトデー(3)


、3、

『もうすぐ終わります。』

『わかった。○駅前の噴水の所にいるから。お酒は飲んでないよね。』

『はい、ウーロン茶を飲んでましたから。』

『そうか、安心した。』


下畑さんからの返信を読み終え一息つく。

わたしの隣に座っていた春美もメールを送ってたみたい。

お互い携帯持ったまま顔を見合わせ、ふと笑った。

春美もお迎えが来るよう。小学校時代の同級生の彼かな?


それにしても部展の打ち上げ、気まずいムードで終わってしまった。

もともとわたしたちはS大ともT女子とも合い席にならず、固まって座っていた。

悪酔いした沙織先輩がT女子に絡んでしまい一気に険悪な空気に。

あんな沙織先輩を見るのは初めてなのでびっくりしてしまった。

S大の人たちがT女子にように不快感を露わにしなかったことがありがたかったけれど。


店の人から女性客のみに配られているクッキーを受け取ると外に出た。

3月半ばといえど夜は冷えていた。

飲み会の後はいつもだと、お酒を飲まなくてもふわふわした高揚感があるのだけど、

今日はそれがしない。


「ある意味忘れられない打ち上げになっちゃったよね。」

春美がわたしの横に並んだ。

「うん、そうだよね。」

先輩たちに別れを言ってから駅に向かって歩き出した。

駅前にある噴水が見えてきた。

大きな声で春美の名前を呼びながら、手を振る男の人がいる。

思わず彼に視線が行った。

年はわたしたちと同じくらい?

栗色の短い髪にくりっとした大きな目が、リスみたいな愛らしい印象を受ける人だ。

「ちょっと、やめてよ。恥ずかしいじゃない。」

春美が顔を赤らめながら口を尖らせ言う。

彼は、そんな春美の様子を気にするでもなく彼女の手を取った。

「またね。」と慌しく春美たちは去っていった。


「風花ちゃん、こっち。」

声のする方を見ると下畑さんがわたしの方へ近づいてくるのが見えた。

朝見たスーツのまま。

会社が終わって直接来たみたい。

「すみません、待ちました?」

「ううん、そんなには待ってないよ。行こうか。」


下畑さんが先に歩いて駐車場へと誘導する。

下畑さんの背中、細身だと思っていたのに意外に広い。

肩幅がそれなりにあるからだろうか。

でも、なんとなく違和感が。

背中がどこか寂しそうに見える。

「・・・さあ、乗って。」

下畑さんは停めてある車の運転席に乗ると、助手席の扉を開けてわたしを促す。

「・・・あの、迷惑だったんじゃ。」

「ううん、そんなことないよ。遠慮はなしっていったでしょ。」

そう言う下畑さんは、笑いながら言うものやっぱりいつもの調子じゃない。

仕事終わったところだから疲れがたまっているのかも。


「下畑さん。よかったらこれ食べてください。」

わたしは鞄から、ホワイトデーのクッキーの包みを取り出した。

2本の色味が違うブルーのリボンを重ねて結び、

白い花のペーパークラフトで飾ったラッピングはわたしのオリジナル。

少しでも兄チョコにつりあうものになっているだろうか。

「風花ちゃん、これ。」

「疲れてる時は甘いものがいいっていうし。下畑さんこそ遠慮なしですよ。」

「ありがとう。」

下畑さんは顔をほころばせて受け取ってくれた。


「・・・風花ちゃん、ぼく変だった?」

「お仕事帰りだもの、疲れ出て当たり前です。」

「そうか・・・、そういう風に見えるんだ・・・。」

下畑さんが苦笑しながらふうとため息をついた。

エンジンを入れると車が走り出す。

様々な車の赤いテールランプの光が、一定の間隔を開けて連なり動いている。


「・・今まで年だなんて思ったこともなかったけれど、若さをうらやましく思った・・・。」

下畑さんがぽつりと独り言のように呟く。

「・・・下畑さん、年だなんて全然そんなことないです。

優しくて頼もしいお兄さんって感じだし。」

下畑さんの弱音。

いつも優しくて大人らしい余裕のある面しか見ていなかった。

ううん、人間なんだからいろんな面があって当たり前だよね。

いろんな感情の下畑さんがいて当たり前。

今だったら言えるかな、越智君との葛藤、弱い自分自身を。

「・・・あの、話してもいいですか・・・。」

わたしは深く息を吸い込みゆっくりと吐いた。 (続く)



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