義姉(3) 自分の気持ちを自覚しようがなかろうが、俺の体調はすぐには戻らなかった。 6年になっても、学校へ行けたり、行けなかったりを繰り返す。 夜はやはり眠れなくて、 ドアの外でぼんやり座り込んでる俺を、深月は黙って抱きしめてくれた。 俺は安心できた。 無条件で俺を包んでくれる、柔らかい温もり。 夏休み前に、深月を尋ねて男が来た。 玄関先で深月親しげ話しかけている。 そいつは誰? 俺は階段の半ばで身を潜めて様子を伺った。 切れ切れに言葉が聞こえてくる。 どうやら深月の同級生のよう。 深月を外に連れ出そうとしている。 深月に近寄り、その手を掴んだ。 同級生の男が、一瞬驚いた顔をした。 けれど、すぐ口の端を上げ笑い顔を深月に向けた。 俺など眼中にない、みたいな風で。 「深月の弟?」と言いながら、俺の頭を撫でようと手を伸ばす。 気安く俺に触れようとするな。 深月の名前を呼び捨てにするな! 俺はそいつを睨んだ。 けれどすぐに不安にかられる。 そいつは俺どころか深月よりも、ぐっと背が高い。 日に焼けた浅黒い肌。 肩幅のある程よく筋肉の付いた体。 対して俺は深月どころか、標準の6年生男子の身長以下で、 腕も細く、白い。 俺には全くないもの。 俺とは正反対のもの。 男らしい体。 俺は腕を持つ手にぎゅっと力を込めた。 「・・・出かけるの?」 言ったものの深月の返事は聞きたくなかった。 「・・・ううん、行かないよ。」 深月はそういうと、あいつの誘いを断った。 みづき、深月・・・。 「聡君、部屋戻ろ? やっぱ廊下暑いよね。」 みづき、深月・・・。 「喉渇かない? 麦茶飲む?」 みづき、深月・・・。 深月が突っ立ったまま動こうとしない俺を心配そうに見る。 みづき、深月・・・。 心配かけてごめん。 このまま甘えたままじゃいけない。 義理とはいえ弟だから、今は深月は俺のそばにいてくれた。 たよりなげで、弱弱しい俺を、深月は義姉として放っておけなかったのだろう。 けれどこれからは? 弟のままだと、いつかは誰かに取られる。 今日来た、あいつかも知れないし、違う奴かもしれない。 深月が愛したいと思う人に、心を持っていかれてしまう。 いやだ、いやだ、そんなの絶対にいやだ。 俺は取られたくない。 深月を誰にも取られたくない。 今のままじゃだめだ。 甘えたままじゃ、 弱っちいままじゃだめ・・・。 俺は、強くなる。 強くなりたい。 誰よりも。 誰よりも、深月が好き。 俺が深月への思いを自覚した瞬間だった。 (続く) |