クリスマスはきらいです 「え? わたしたち3人だけなんですか?」 「うんうん、そうなるね。」 高野深月先輩が苦笑交じりに言った。 美術サークル主催の合同コンパ。 後期が始まってから入部したわたしはクリスマスに予定もないし。 二つ返事で参加を決めたんだけど。 ・・・ちょっと企画としては終わってる、というかサークルとしても終わってる? 美術サークルは絵を描いて、年2回、画廊にサークルとしてその絵を展示するのが主な内容。 絵を描く性格上、個人での作業するし、その分個性の強い人が多い。 2回生の先輩はその中でもまとまってる方だけれど、1回のわたしたちは・・・。 わたしだけなのかな、どこかに疎外感感じるのは。 わたしは日文、他のメンバーは経済がほとんどで学部が違うこともある。 唯一、仲良かった棚瀬が行くといって安心してたら、彼女もキャンセル。 まあ、その理由がかわいそうすぎて文句も言えないけれど・・・。 3人でコンパという名のお食事会。 わたしは未成年だし、ウーロン茶を飲んでいる。 野口沙織先輩、飲むピッチ早すぎ。 あれかな、ちらっと棚瀬から聞いてはいたんだけれど、S大の篠崎さんのことで荒れちゃってる? 居酒屋を出たあと、わたしは自宅に向かう。 お酒飲んでいなくても、居酒屋いくと何か酔う。 その独特の空気に酔っているのかな。 ふわふわと気持ちよい。 家に帰るとお客さまがいた。 兄と同じ会社の下畑さん。 まだ若い会社で、確か起業したのが4−5年前?だったかな。 広告とかを取り扱ってる会社でウェブデザインもするとか・・・。 「ああ、やっと帰ってきた。」 兄の部屋へ行く。 部屋は書類が無造作に詰まれ、パソコンに周辺機器で埋められている。 パソコンの前にいる下畑さんがわたしを見上げる。 「ごめん、風花ちゃん、どうしても頼みたいことがあるんだ。」 下畑さんがひきつった笑みを浮かべ、申し訳なさそうに言った。 (なんだか顔色悪いですよ、おにいちゃんもだ・・・。) わたしは嫌な予感がした。 「広告のちらしなんだけれど、予定していた分が手違いで間に合わなくなって。 風花ちゃんがこういうの得意でしょ、だからお願いに来たのだけれど。」 「・・・無理、無理です。」 「いやいや、そんなことないよ、素敵な絵を描いてるじゃないか。」 下畑さんが、書類の中から幾つか取り出し、わたしの前へ出す。 それは、わたしが気分が乗ったときに描いていたイラストの数々。 わたしの部屋にあるはずなのに、勝手に持ち出したのね。 そんなことした犯人は、おにいちゃん・・・、覚えておきなさいよ。 「締め切りが26日午前10時までなんだ。もう時間がない。」 「な、デザイナーさんに無理に頼めないだろ、これじゃ。」 と、ちょっとお二人さん、そこまで放置してたってことが大いに問題な訳でしょ。 「お願い頼む、俺たちを助けると思って。」 兄と下畑さんが揃って頭を下げた。 そして情けなさそうにわたしを見る。 男二人、雁首そろって泣きそうな顔するでない! わたしは二人の悲愴感に飲み込まれ、仕方なくお手伝いすることに。 24日から26日朝にかけて、寝る間も惜しんで提出するデザインを完成させた。 もう、ぐったり。 「おかげで万事うまくいったよ、ありがとう。」 と下畑さんが後で会社から電話してくれて、わたしもなんだかうれしくなった。 でもね、ちょっとクリスマスがきらいになりそう・・・。(終) |