クリスマスなんてきらい


12月になると、そわそわしたなんとも言えない空気を感じるのは気のせいやない。

大学の講義も小テストをこなして一区切り、

この時期になって考えるのは、あれだよね、やっぱり。

「クリスマス前までには、彼氏ゲットしなきゃ、寂しいやん。」

昼休みの学食、日替わりランチのハンバーグをほおばりながら、沙織がつぶやく。

「あのさ、クリスマス意識して彼氏作らんでも・・・。」

「そんなんいうても、イベントに彼氏がいないのはすごく寂しいもんよ。」

しみじみと沙織は言う。

そんなもんかなあ、ぴんとこないけど。

彼氏いない暦、実年齢の19歳、今も特に欲しいとは思っていない。

それよりもイブにあたる24日はわたしの誕生日でもある。

両親はずっと、誕生日とクリスマスを一緒に祝うので、

その分損をしているように感じていた。

それに24日頃には学校も冬休みに入る時期でもある。

クリスマスが誕生日であることは、

今まで出会った同級生たちにとっては気にも留まらないようで、

1月の登校日に

「そういえば、相楽さんクリスマスが誕生日だったよね。

言うの遅くなったけれどおめでとう。」

なんて言われる始末。

まあ、わたしが級友たちにとって、その程度の人間だからでもあるのだろうけれど。

「なんにしてもわたしには関係ないよ、24日、25日ともバイト入ってるし。」

「・・・真由美は相変わらずなんだね。」

色気もくそもないと言いたいのでしょう。

クリスマスは祝日ではないし平日やん。

夢みてる方がばかげてる。

生産的に労働する方がずっといい。

それにわたしのバイト先の書店。

店舗は小さいけれど、大手の書店の系列のものだから、

せいぜい顔を売って、今後の就職戦線の礎になれば、なんて打算もある。

不況の世の中だもの、もっと現実的に立ち回らなければ。


・・・なんて嘘です。

強がり言いました・・・。

書店でレジが暇な時につい観察しまうのは、連れ立って歩く恋人たちの姿。

沙織は結局イブまでフリーのまま。

でも数日前クリスマスコンパすると、サークルのメンバーと息巻いていたし。

今頃は盛り上がっているだろう。

それなりには寂しくないクリスマスよね。

まあ、変なのにお持ち帰りされなければと、ちょっと心配だけれど。

午後9時の閉店時間。

がらんとした店内でわたしは帰る準備をしていた。

「相楽さん、おつかれ。」

「おつかれさまです。」

店長の石本さん。

年は26〜7くらい?の若い店長。

色素の薄い髪と涼しげな目は、学生ですって、そのまま通りそうに見える。

石本さんは独身だったはず。

閉店ぎりぎりまでの仕事。

明日はわたしは遅出だけど石本さんは早出だから、もしかしてわたしと同類?

「いや、相楽さんがいて助かったよ、

クリスマスはバイトの子って、シフト避けがちだしね。」

店で雇われているバイトは、わたしを含め6人。

シフトを組む際にクリスマスを外していたバイトの子たちの顔が、

ちらりとわたしの頭の中に浮かんだ。

「そういえば、相楽さん、今日誕生日じゃなかった?」

「なんでそれを?」

「いやいや、これでも店長だし。」

ああ、履歴書からね。

でも覚えててくれていたなんて。

「お誕生日おめでとう。」

あらためてそう言われるとすごくうれしい。

「それで、今からなんだけれど、予定ある?」

これって、いわゆるクリスマスのイベントのお誘いですか?

わたしでいいんですか、血迷っていませんか、石本さん。

てか、ようやくわたしにも運命の人に巡り合えたということですか?


なーんて、甘かった。

石本さんに連れられたのは、24時間営業しているラーメン屋の厨房。

石本さんの知り合いがしている店だそうで、店員に欠員ができたとか。

人気の店らしく、クリスマスにかかわらずにぎわっている。

「よかった、引き受けてくれて。

ぼくがやっても良かったのだけれど明日は早出だし、相楽さんは遅出だから。」

石本さんはにっこりと、それはそれは素敵な笑みをわたしに向けて下さった。

ええ、ええ、分かりましたよ。

しっかり働きますとも。

わたしは翌日、始発の時間まで、みっちりと勤め上げた。


ああ、やっぱりクリスマスは嫌い。(終)



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