24 Xmas time


今日はクリスマスイブだ。

恋人通しがすごす特別な日。


「さあ、乗って?」

運転席に乗っている男、

オフホワイトの軽自動車の助手席のドアを開けにこやかに哲哉が笑う。

「うん、乗ってやるよ。」

わたしも負けじと笑い返してやった。


そうクリスマスの定番通り?哲哉とドライブでデートすることになっている。

哲哉は3月14日から小学校の友人から彼氏に昇格している。

けれどキスはまだ。

マウスツーマウスのがまだなだけで、口の横にというのはあったけど。


わたしにとってはセカンドキス。

おかあさんと七五三にしちゃったキスをカウントすれば。

もうキスはトラウマだ。

せめてセカンドキスはロマンチックにと思ってもバチは当たらないだろう。


いやキスよりも命を問題にする方が先かも

哲哉は、先々週に車の免許を取ったばかり。

わたしはシートベルトを取り付けものすごく緊張している。

それで試乗も兼ねてのドライブなのだ。



「ほんまに大丈夫なんやね?」

わたしは軽い調子で不安を言う。

「たぶん?」

哲哉も軽く返事を返す。

「ちょっと、たぶんだなんてやめてよ。」

「そう? いっしょに心中もよくね?」

「やだ、笑えないよ、それ。」

あはははと哲哉が笑う。

わたしも一緒に笑った。ただし顔は幾分引きつってたけど。


哲哉はエンジンをかけ、車を走らせる。

スムーズな車の動きに、拍子抜けしてしまった。

運転うまいんちゃう?

車線変更とか左折とか、もっとぎくしゃくな動きになるかなと思っていたから。


わたしは哲哉を見る。

わたしの目の位置には哲哉の喉仏、それより高いところにある頭。

ハンドルを握る大きな手。

セーター越しにもわかるがっしりとした肩。

普段見慣れた自転車に乗っていた哲哉とは違う、男っぽさを感じた。


そんなわたしの視線に気づいたのか哲哉が言う。


「な、大丈夫だろう? 俺のこと惚れ直した?」

「何が?」

「春美ってば、やっぱ素直じゃないよね。」

「ううん、こんなに素直な子はいないよ?」

「自分で言うかな、それを。」

まあいいけど、と哲哉は笑い声混じりに言う。


「誰かさんが言ってたし・・・。」

哲哉は正面をまっすぐ見たまま小さな声で呟いた。

「成人式には彼氏の車で行きたいとかなんとか。これでバッチリだろう?」

「・・・哲哉。」

わたしの頬が紅潮しているのが自分でも感じられた。

哲哉ってば、なんだかんだってわたしの言うこととかすること、よく見ているのよね、昔から。



車は市外に向かって走っていく。

目的は今年できた大きな観覧車の見物。

クリスマスとあって、特別な電飾をその観覧車がしているそうだ。

外灯以外は照らすものがない海岸沿いの道。

その道を挟んだ対岸に、小さく、観覧車の瞬く電飾が見えてきた。

哲哉は車を道の脇に寄せ停車させた。


「春美、降りて見る?」

「うん、せっかくだしね。」


わたしは車を降りる。

海から来る風が冷たい風が頬を体を吹き付ける。

「寒っ。」と体を縮込ませると、背後から包むように哲哉がわたしの体を抱く。


「・・・観覧車、きれいだよね。」

わたしの頭の上で哲哉の声がした。

「そ、そだね。」

わたしはどきどき跳ねる心臓の音を悟られないように、できるだけそっけなく言ってみた。

けれども、上ずった声が出てきた。

哲哉はそんなわたしに構う風でもなく、

「今日もつけてきてくれてるんだ。」

哲哉の声が耳の近くで言った。

「当たり前やん、これ哲哉がくれたピアスなんやし。」


去年のクリスマス、哲哉からのプレゼント。

思えば、これが哲哉との関係変わる前触れやったんかも。

それとともに余計なことも思い出す。

姉の作ったケーキの残骸たち。

重なってしまったもらいもののケーキ。

今年はそれもない。

姉は恒例のケーキを作ってたけれど、

姉が苦手?な計量とかはわたしが手伝ったし、失敗せずに完成できた。

今頃姉は彼の家でケーキを食べている頃かもしれない。

思わずぷっと声を出して噴出してしまった。


「・・・なんでそこで笑うかなあ。」

哲哉の怪訝な声が、再び頭の上でする。

「ごめん、ごめん。去年のこと思い出してん。

あんなクリスマスってないよね。」

わたしは体の前に回してある哲哉の手の甲に自分の手を重ねる。

「ありがとね、哲哉。ここに連れて来てくれて。観覧車ほんまにきれいや。」


観覧車は緑、青、赤、黄と様々に色を変えていく。

その観覧車の電飾が一瞬消えた。

そしてハートの形になった電飾がぽっと灯る。

色を変え再び瞬きだした。

あれかな、クリスマス限定の電飾、と哲哉に言おうとしたら、

哲哉は抱いていた手を緩めた。

わたしに向かい合わせになるように体の位置を変える。

哲哉の顔が近づいてきた。

哲哉の唇が軽くわたしの唇に触れて離れる。


「おばさんとしたキスってあんな感じ?」

「・・・うん。」

「じゃあ、これは初めてだよね。」

と言うなり再び哲哉の唇が触れてきた。

熱のある舌が唇から差し込まれた。

わたしの歯や歯茎に哲哉の舌が押し当てられ撫でられた。

わたしは口を開き哲哉の舌を受け入れる。

口内で探るように動く哲哉の舌に自分の舌を合せる。

そして互いの舌が絡みすすり合う。

哲哉の唇が離れた時には、わたしの息はすっかり上がっていた。


「春美。」

擦れた声と共に哲哉の熱の篭った息がわたしの唇近くにかかる。

「春美の初めてもこれからも全部俺にくれる?」

わたしは息を飲み込む。

返事の代わりに彼の唇に自分から唇を重ねていった。

(ひとまず終)+αへ
(+αはBL+近親相姦?ぽい?表現が出てきますので注意、でも軽い〜)



他の人の1年後のクリスマスを見る。深月風花沙織真由美

春美の他の話を見てみるクリスマス姉の成人式バレンタインホワイトデー

番外編、さくらんぼ(春美編)

トップ



 
ホームへ
inserted by FC2 system