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成人式は出会いの場


友人の真由美の「枯れ」具合、心底心配してしまう。

この子はクリスマスに続いて、成人式までバイトですごすとのたまわった。

学生なんやし、そこまでがつがつバイトせんでもと思ってしまう。

まあ、クリスマスは一人身だと寂しく感じるから、

バイトで気を紛らわすってことあるかもだけど、成人式は違うやろう?

振袖を着る機会って成人式か結婚式かっていうくらいだろうから、

その意味でも別格のイベントなんだけどな。

それにこれもひとつの「彼」作れるかものチャンスやん。

成人式って地元でするから、当然、小、中学校の同窓生たちも集まるわけで、

その後同窓会って流れよう聞く。

懐かしい同級生から恋愛に発展っていうシチュエーションもあるかもやのに、

もったいない。


でも真由美、「枯れてる」割には、たまにはっと「女」を感じる瞬間あるんだよね。

どこがとはいえないけれど。

なんだかんだといっても20歳、気持ちが枯れていようが、

年相応のフェロモン出てるってことなのかな?


フェロモンといえば、サークルの深月。

目を奪われるくらいきれいになった。

深月は何も言わないけれど「彼氏持ち」の匂いがぷんぷんしてる。

つくづく「彼」が欲しいと思ってしまう。


講義も終わりサークルもない日。

あとは帰宅するのみ。

トイレに行き鏡の前で化粧のチェック。

目力とばかりマスカラをまつげ念入りにつける。

どこで出会いがあるかもしれないもの。

でも、期待通りに出会いなんてこともなく、何事もなく家に着く。


わたしは和室の衣紋かけに掛かかっている成人式に着る予定の振袖を今日も見てみる。

これを着るのももうすぐ。

エンジ色の落ち着いた赤に、絞りと花の模様が入っている。

うんうん、とってもきれい。

うっとり眺めていると母が声をかけてきた。

「沙織、成人式何時からだっけ、ちゃんと分ってるわよね。」

「確か10時半から。美容院の予約は6時半からよ。」

そんなのすでにチェック済みよ、

お母さんは忘れっぽいから念押しも必要だろうけれど。

わたしは自室に行き、机にしまっていた成人式の通知の封書を取り出した。

そしてお母さんのいる居間に行き、封書の中身を取り出した。

「ほら、ちゃんと午前10時半ってあるでしょう? 

場所は区役所の大会議室・・・。」

と言ったところで一気に血の気がひいた。


成人式の時間と場所が書かれた下に、さらに文章が続いている。

そこには、


大会議室での成人の集いは期間内の申し込みで、新成人先着150名、

申し込みの締め切り日、12月1日から12月22日まで、


と書かれていた。

お知らせを持ったまま身動きできなくなったわたしをいぶかしく思ったのか、

母が近寄ってきた。

「えっ!」と驚きの声を出してわたしの方を見た。

「・・・ごめん沙織、お母さんもちゃんと見てなかった。」

「・・・知らせ、わたしが自分の机に直してたから、しょうない・・・。」

「・・・うーん。振袖は予定通り着て、写真だけ撮る?」

申し訳なさげに母は言う。

目の前がぐらりと揺らぐ。


ああ、わたしの成人式が・・・。

同級生たちと再会して、同窓会行って、そこで恋が芽生えてって。

何度もそういう場面をシュミレーションしてたのに。

全部、ぱあ?



なんてそんなん納得しません!

成人式当日、予定通り着付けを済ませた後、タクシーで区役所に向かった。

新成人祝う会やもの。

一人くらいは頼み込めば会場入れてくれるかも。

そう思って行ったんやけど、甘かった。


大会議室前の通路には受付があった。

ちらりと見ると、出席者の名簿があり、係りの人が出席者を名簿で確認していて、

それ以外は通さない空気が満々。

とてもとても「申し込みし損ねたので入れてください。」なんてお願いできやしない。


わたしは通路に立ったまま、

順々に受付を済ませていく新成人たちを見つめるだけだった。


「野口さんやない? 久しぶり。」

紺色のスーツを着た男性がわたしに話しかけてきた。

「・・・ええと? もしかして日野くん?」

その男性、日野くんは、はにかんだ笑顔を向けてこくんと頷いた。


中3の時の同級生で同じ美化委員をしていた彼。

身長は当時わたしと同じくらいだったと思うけれど、すっかり伸びたのね、

180はありそう。

スーツ姿が大人な色気を出してるけど、当時の面影もちゃんと残っている。


「野口さん、誰かと待ち合わせかな?」

「ううん、違うけれど・・・。」

わたしは躊躇したけれど思い切って日野くんに話してみた。

「そっか、じゃあ、イベント会場の方へ行ってみたら?」

「イベント会場?」

「確か、お知らせにもそのこと書いてあったと思うけれど・・・。」

彼はブランドもののセカンドバッグから成人式の通知の封書を取り出し示した。

「ほら、ここ、参加自由ってあるし、式典の模様をモニターで見られるみたいだし。

区役所の隣のイベントホールでやってる。」

ああ、ほんまにそう書いてある。

つくづくちゃんと読んでないなと、自分にあきれるばかり。

「まじ、そそっかしい、野口さんらしいや。」

日野くんが苦笑した。


「ああ、そうそう、2組のみんなで今日夕方6時から、

×駅に集合して、同窓会しようって話でてる。野口さんもどう?」

「うん、もちろん行く。」

「それ目的で来たんやもん」という言葉は出さずに、控えめに答えた。

「じゃあ、後でまた。」と日野くんとそこで別れた。


わたしは言われた通り、区役所の隣にあるホールに向かった。

新成人が結構いたのでようやくほっとできた。

そうだよね、区の新成人どう考えても150人以上は悠に越えてるはずだし、

全員参加できないっていうのも変。

会場に入りきれない人たちをここに収容ってわけなんだ。


そうしているうちに式典が始まった。

モニターの中では、厳粛な雰囲気がする大会議室の模様を写しているけれど、

それを見ているホールの新成人たちは、雑談しながらなので少し騒がしい。

厳粛な空気はこちらにはなかった。

生の会場で行われてる成人式と、それを間接的に眺める成人式。

複雑な気分がした。

でも、それも成人式には違いないやん。

式典のしおりにお祝いの市内の施設無料券ももらってるし。

気を取り直して、同窓会でがんばらなけりゃ。


式後、タクシーで再び家に戻ると、写真を撮ってからすぐに着物を脱いだ。

軽く昼食を取ってから、同窓会に行くための服を選んでいた。

さんざん悩んだけれど水色のノースリーブのワンピースに白のコート着て、

それに白のブーツを合わせていこうと決めた。

メイクもファンデに口紅をし直して、きめはアイメークよね・・・。

鏡を前に、「よし」と気合を入れる。


ほんとに楽しみ。

日野くん、結構かっこよかったし、ええかもな。


少し期待しながら待ち合わせの×駅に行く。

5分前に来たのだけれど、十人くらいすでに待っていて、

その中に日野くんの姿もあった。

彼はブラウンのジャケットにジーンズ姿、カジュアルな装いも極まっている。

わたしはできる限りの笑顔をして挨拶した。

「ああ、野口さん、服だとまた随分雰囲気変わるよね。」

日野くんが目を丸くして言った。

うーん? 

驚いてはいるけれど、微妙な反応かな?

まあ、勝負はこれからだ。


わたしは日野くんの中学卒業してからのことをさり気に聞いてみた。

校区で2番目の進学校に行った彼は、

1浪した後O医大に合格、そこで学んでいるそうだ。

「学年ひとつ下になっちゃたけど。」とはにかみながら言う顔が、

母性本能を刺激する。


O医大とは、将来なにがしかのお医者さまに。

これはお得な物件ではない?

トークに力入りそう。


と思っていたら、日野くんが一点に目をやると、ぱっと晴れやかな表情をした。


「・・・こんばんは。」

声をした方を見ると、

ベージュのコートに肩までのふんわりカールした髪をした小柄な美少女が近づいてくる。

「こんばんは、吉川さん。」

ええっ!あの吉川さん?

確か彼女は当時まじめを絵に描いたような子で、黒ぶちのメガネをかけていたはず。

メガネ外したら美少女でしたっていう漫画とかでありがちな設定を実際に見ちゃうなんて。

しかし、清楚さが全面に出たこの美少女ぶりは何? 同じ20歳?


あれ? なにこの空気。

日野くんと吉川さんずっと見つめあっちゃってる。

これって、もしかしなくても同窓会にありがちなシチュエーション発生?

いやいや、まだまだ。


それから居酒屋に移動した。

わたしはめげずに日野くんの右隣の席を確保したけれど、

彼の左側には吉川さんがいた。

日野くんはわたしと話すよりも、

吉川さんの方を見つめている方が多かった。

会話のやりとりから、日野くんと吉川さんは大会議室で偶然会い、

式典終わるまで行動を一緒にしていたそうだ。

ふーん、その時からすでに彼女と差があった訳だ・・・。

それまであったテンションが急速に萎えた。


同窓会はわたしの気分とは裏腹に、そこそこ盛り上がって終わった。

日野くんと吉川さんが並んで歩いているのを横目で見ながら、

わたしは一人家に帰った。



ふう、また一人なんやな。

まあ、日野くんも運命の人ではなかったっていうことだけなんやし。

思えば成人式の出発点からアクシデントやったし、

ここでの出会いはわたしにとってあかんって暗示やったんかも。



落ち込まんでもええ。

まだまだ、これからや。

きっとどっかにいるはず。

わたしと運命をともにする彼氏になる人が・・・。


心に再び気合を入れた。 (終)



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