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姉の成人式


「とってもきれいやわ、わたしの若い頃を思い出すわ。えへっ。」

母は、美容院から帰って来た姉を見て、感嘆の声をあげた。

今日は姉の成人式。

紺地にピンクの花があしらわれた振袖は、姉の雰囲気によく合っていた。

姉は照れくさそうにうつむいている。

姉はこれから、彼の車で成人式の会場に向かうことになっている。


ピンポーンとインターホンが鳴った。

いそいそと母が玄関へと向かう。


「あら、辻本くんやないの?」

「成人式おめでとうございます。

お母さんからお祝いにおまんじゅう渡すように言われまして。」

「まあ、ありがとうね。」と母は居間へと辻本くんを通す。

辻本くんは姉の姿を認めると驚いたように目を丸くした。

ちょっとその様子が気に入らない。

「馬子にも衣装っていうでしょう?」

思わず憎まれ口が出てしまった。

辻本くんはわたしの顔を見て、うっすら笑みを浮かべた。

もう、その顔憎たらしい。


クリスマスに彼からはピアスもらったけれど、

それ以上何かがあった訳ではなく、

わたしの彼でも何でもない人なんだけれど。

むかむかする。


あーあ、お母さんお茶出したりして。

辻本くんも用事済んだらさっさと帰ればいいのに。

なんて、愛想もないこと思ってしまう。


そうしている間に、インターホンがまた鳴った。

今度は姉の待ち人である彼が来た。


姉はほほを染めて彼に手を取られて、外へと出て行く。

わたしたちも外に出て、二人を見送った。

ほんと、彼の前だとあの大雑把な姉が女らしくかわいく見える。

幸せいっぱいのオーラを辺りに振りまいている。


「彼氏の車で送り迎えっていいよね、なんか、うらやましい。」

思わず本音が出てしまった。

「そうだよな。いい雰囲気。」

辻本くんもしみじみと言う。


「・・・ちゃんとピアスしてくれてるんだ。」

辻本くんがわたしの耳に目を向けて言った。

「うん、つけてる。」

ありがとうって言おうと思ったけれど、つい辻本くんから顔をそらしてしまった。

お礼、もらった日に電話で伝えてるから、2度も言う必要なんてないよね・・・。

それになんとなく恥ずかしいし・・・。


「・・・車の免許今年中に取らなきゃな。」

「辻本くん教習所通うんだ。わたしもがんばって取ってみようかな。」

「棚瀬は取る必要ないんやん。」

「は? どういう意味?」

なぜか辻本くんの顔が赤くなってる。

「じろじろ人の顔見んでいい。」

と言いながら、辻本くんは人差し指でわたしのおでこをつんと突いた。 (終)



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