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バレンタインは充電中


「いらっしゃいませ。」

市内にあるデパートの地下売り場。

売り子の声もさまになってきたと思う。


試験が済み休みに入った。

2月はバレンタインの季節や。

でも、わたしがチョコをあげる相手はいない。

いいなと思っとった人は彼女持ちやし、第一学校休みやから出会いも何もない。


やっぱり3月に控えている部展までは動きようもないか。

服とか化粧品とか、だいぶ散在してしまったんもあるから、

軍資金調達のため、とりあえずはバイトや。


バイトといえば、真由美を思い出す。

あの子も今頃やってるんやろうなあ。

でも、わたしは枯れてるあの子とは違うで。

運命の相手を探すため自分を磨くための軍資金稼ぎに来てるんやから、今は充電中や。


しかし、このバイト、採用してもらったんはええんやけど、ちょっと失敗したかも。

バレンタインのチョコの特売の売り場。

期間は15日まで。

そこで売り子してるんやけど、ちょっと目の毒かも。

女子学生ぽい子同士や、OLさんたちが買いに来るのはええんやけど、

やっぱり来るんや。

いちゃいちゃバカップルが。

ようもこんな人目のある場所でいちゃいちゃべたべたできるなあと腹が立つ。

後ろから蹴ったろかいな。

でもそんなんできへんし、客商売や。

物騒な考えは仕舞い込んで笑顔で接客。

異色の客もたまにいる。

少数やけど男の人や。

いわゆるこれは逆チョコというやつですか?

そういや、友チョコっていうやつもあるんや。

デパート自体は売り上げ落ちてるって聞くけれど、

チョコレート売り場はまだまだ熱気ある。



「え? 深月?」

カウンターの向こうに、真剣な顔をしてチョコレートを見ている深月を発見した。

「・・・彼のために見に来たん?」

「ええ。」

恥ずかしそうに深月は俯く。

その仕草が女の子って感じで、えらいかわいい。

ええな、やっぱり彼氏持ちは・・・。



特売の売り場も14日をピークに賑わう。

14日までにチョコを買いに来る人はチョコを選ぶのにも時間をかける。

みんな真剣にチョコを選んでる。

そのチョコが本命であっても義理であっても。

それだけの思いを甘い茶色の粒一つ一つに込めている。


本番の14日になると売り場の空気はまた違ってきた。

真剣に選ぶ人が少なくなり、むしろ様子眺めな感じ。

夕方を過ぎるとまた雰囲気が変わった。

半額シールが貼られているからだ。

それを狙って、客がくる。

チョコが売れ出していく。

自分用のやろうか。

贈り物だとしたらどうかと思ってしまう。

「気持ちも半分や」って言われてるみたいやし。

まあ、その時はきっと半額シールを剥がしてるんやろうけどな。

やっぱりそうとは知らない、もらう方はうれしいんやろな、手放しで。

そう思うとやりきれへん。


翌15日、特別な問題も起こらずバイトは終わった。

ま、1日ってたいてい同じこと繰り返しなんやし。

問題起こる方のが少ないんやけどな。

さあてこれで軍資金の補充完了や。



デパートを出て駅に向かって歩いていくと、目がいくのはよそのテナント。

まだ売られていた半額シールの貼られたチョコのワゴン。

わたしは立ち寄りチョコレートを1箱買った。

白い化粧箱に薔薇のペーパークラフトの飾り。

その上に容赦なく貼られた、半額シールの赤色が目に痛々しい。


本命、義理、友、逆、自分。

そんなチョコの成れの果て。

バレンタイン戦線に活躍することなく、

また半額に値を下げられながらも売れることなく散るチョコたち。


ワゴンに結構数まだあったよな。

同じチョコなのに無念やろうな。


歩きながら箱を開け中身のチョコを取り口に入れる。

口の中に別層になった柔らかいチョコがとろけていく。

売れ残りなんか関係ないやん。

甘いしおいしいし。


今年もチョコ自分で食べたけど、来年こそ誰かにあげれたらと思う。


2月の夜はまだ寒い。

わたしは冷えた外気に身をすくめ、またひとつチョコを口へと運んだ。 (終)



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