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ちーと成人式



今日は成人式だ。

ぼくはこの日のためにと用意したスーツに着替えていた。

就職した際にも使えるようにと、デザインは流行に囚われないもの。

とはいえ、普段着慣れていないから服が浮いているんじゃないかと気が気ではなかった。


「浩樹、千鶴ちゃん来ているわよ。」

「分った。」

ぼくはネクタイの締め具合を確認してから居間へと向かう。

ちーは父と向かい合わせのソファに座っていた。

ぼくが来たことに気づくと、彼女はじっとこちらを見ている。

やっぱりどこか変だったのかな、ぼくの格好。

おそるおそる聞いてみると、りんごみたいな真っ赤な顔をして、

「すごく似合っているよ。」と言ってくれた。

ああ、すごくうれしい。

ほんとにちーはかわいい。


ぼくは「受験の気晴らしに」と成人式にちーを誘ってみた。

有無を言わせず腕を掴んで、強引かなとは思ったけれど、

彼女はいっしょに来てくれた。


ちーが出かけるときによく見るワンピースは彼女のお気に入りだろう。

白色のワンピースは、彼女に年相応の清楚らしさとかわいらしさを添えよく似合っている。


彼女を自転車の荷台に乗せて会館へ向かった。

彼女が腕を回しているお腹と、彼女の体が触れている背中がひどく熱く感じられた。

彼女が直接ぼくの顔を見ることができない荷台にいてよかったかも。

ぼくの顔は緩みっぱなしだったろうから。


会館に着くとちーの表情が曇った。

ぼくと同じ年の人たちの中にいて、気後れしてしまったのだろうか。

ちーの気分を晴らそうと思っていると、赤い振袖の女が近づいてくる。

その女は確か中学校の時の同級生だ。

つーんと甘ったるい匂いが鼻につく。

匂いのきつい香水は和服に似つかわしくないぞ。

その女に2−3言葉のやりとりをしていると、ちーの顔がますます色を失くしてきた。

ああ、そんな顔をして。

ぼくが声をかけると、ちーは心配かけまいと笑顔を向けた。

もしかして、さっきの女に焼餅やいたのかな?

ぼくを異性として意識してのものだとうれしいのだけれど。

いやいや、変に期待を持ってはいけない。

小さい子どもが持つような独占欲かもしれないし。


成人式は決められたプログラム通り進んで行った。

ちーは眠たげな顔をしていたけれど、耐えていた。

寝顔を見られないのは残念とは思うけれど、

ぼくの部屋で見せてくれるだろうし、他のやつらに見られなくてよかったとも思う。

それにしても、今にも眠ってしまいそうな呆けた顔のちーもかわいいな。


会館を出るとあの同級生の女に呼び止められた。

同窓会だと?

ちーがいるのに声をかけないで欲しい。

案の定、ちーがまた不安げな顔をしているではないか。

「同窓会行かなくてもいいの?」

うん、行かないよ。

そんなこと全然、気にしなくていいんだよ。

ぼくはちーが側にいつまでもいたい。

ちーの頭に手を乗せ撫でてみる。

本音は彼女を腕に閉じ込めて抱きしめていたい。


ちー、君が成長していくにつれて、君をとりまく世界が広がっていくだろう。

どうか、その世界の中にぼくの居場所をとっておいてくれないかな。

できればずっと隣にいたい。

成人式の帰り、彼女の重みを背中に感じながら思った。



千鶴側からみた成人式浩にいの成人式

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