5年前のホワイトデー 3月14日、晴れの日。 とても暖かい。 学校が終わり、いつものようにスクールゾーンを通って家に帰る。 来週23日で終了式、それから春休みになる。 学校へ行くのももうちょっとで終わり。 浩にいは学校もう終わってたっけ。 先週が、中学の卒業式だった。 今月は、全然浩にいの所に行っていない。 高校の試験、確かあさってだったはず。 浩にい、勉強してるんだろうな。 そう思いながら家に帰ると、お母さんが2階を指す。 浩にいが来ているのだ。 わたしは急いで自分の部屋に行く。 浩にいがわたしのベッドに背中をもたれさせて、居眠りしていた。 待ちくたびれちゃったのかな。 でも、来てくれたのが、うれしい。 わたしはランドセルを置くと浩にいの側に行く。 浩にいがいつもわたしにしてくれてるように、わたしは浩にいの頭を撫でた。 ******************************************************************* 頭を誰かが撫でている。 目を開けるとちーが心配そうにぼくを見ている。 「浩にい、大丈夫?」 「うん、ごめん寝ちゃってて。」 ぼくは苦笑した。 いつもはちーが寝ていてぼくが起こしていたけれど、今は逆だ。 ああ、それよりも大事なこと。 「ちーこれ、どうぞ。」 ぼくは持ってきていた手提げの鞄からクッキーの包みを取り出す。 「浩にい、いいの?」 「今日はホワイトデーだろ? 遠慮しない。」 「ありがとう。」 ちーがうれしそうにクッキーを受け取った。 「浩にい、ここにいて大丈夫なの? 試験・・・。」 「ああ、大丈夫。それより、お願いしてもいいかな。」 「お願い?」 「うん、試験が受かるおまじない。」 ちーはぼくの言う通りに、ぼくの両手を握った。 そしておまじないの言葉を言う。 「浩にいがんばって。試験受かりますように。」 ちーのおまじないはてきめんだった。 心の奥がじんわり暖かくなってくる。 今月ちーとは全く会っていなかった。 勉強で気が張り詰めて、息苦しく感じていた。 でも、このおまじないで、楽な気分で試験に望めそうだ。 ホワイトデー、ぼくから贈り物をするはずが、ちーから贈り物をもっらってしまった。 ちーのおまじない。 心を癒す暖かい時間。 ちーがクッキーの包みを開けた。 「浩にい、いっしょに食べよう。」と、またぼくに眩しいくらいの笑顔を向ける。(終) |