5年前のバレンタイン 2月14日のバレンタイン。 わたしはチョコを持って浩にいの家に久しぶりに来た。 浩にいは高校受験があるので、しばらく行けなかったのだけれど。 バレンタインは別だよね。 わたしは浩にいのベッドを背にしてもたれて座っていた。 浩にい、学校から帰るの、どのくらいかな。 わたしがいるの驚かないかな。 嫌がられたら悲しいかも。 中3の浩にい、背がすごく高くなって。 声も低くて、電話越しだと浩にいのお父さんと間違えてしまいそうになるし。 どんどん大人になってく浩にい。 ************************************************************* ぼくが学校から帰宅し部屋に入ると、ベッドに寄りかかり居眠りしているちーがいた。 小学4年のちーはあどけなく、寝息をすーすー立てている。 ちーが部屋にいるのを見るのは久しぶりだ。 受験生であるぼくに気を使ってなのか、遊びに来ることがなくなっていた。 その気遣いがうれしくもあり寂しくもある。 遠慮しないで遊びに来ればいいのに。 ちーの手元にラッピングした包みがある。 ぼくはちーの頭をそろりと撫でた。 「・・・浩にい、起きた?」 ちーが薄く目を開けた。 「あ、ごめんね。チョコどうぞ。」 「ちー、いつもありがとう。」 ぼくはチョコを受け取った。 ちーは顔を赤くしている。 不意にちーが顔をしかめた。 口を手で押さえ、くしゅんとくしゃみをひとつした。 ぼくは制服の上着を脱いでちーの肩に掛けた。 「寝てたから冷えたんだろうね。そのまま掛けてるといいよ。」 「浩にい、いいの? ありがとう。温かいね。」 「頭に栄養補給するね。ちーもいっしょにチョコ食べよう。」 ちーはぼくの顔を見ながら、蕩けてしまいそうな笑顔を返してきた。(終) |