卒業〜ホワイトデー〜そして試験(2) おととい昨日と肌寒かったのが一転、今日は朝から暖かい。 気候の変わり目って、ころころ変わって安定しないなって思う。 三寒四温っていう四字熟語をふと思う。 三日寒い日が続いたあとの四日間は暖かい日。 それを繰り返していく時期のこと。 もともとは、中国などの冬の気候を指す言葉だけれど、 日本では転じて早春の頃を指すようになったという。 言葉も場所や時間の移りかわりで安定しないものなんだなと思った。 寒い、暖かい、反対の方向を行ったり来たりする気温。 薄く雲のかかったすっきりとしない空模様。 今のわたしの心もどこか似ているかもしれない。 心許なく、落ち着かないこの気分。 あさって公立の後期試験がある。 卒業式の気分がまだ残っている。 でも、間近に迫っている試験に気持ちを向けなければならない。 部屋の掛け時計の針は午後1時30分すぎを指していた。 試験直前のこの時期。 外には出ない。 体調万全にしなきゃだし。 かといって、詰め込んだ勉強もしない。 試験に落ち着いて臨めるよう、 過去の後期試験に出題された問題を見直したりしながら、 軽く頭を解すような勉強をする。 今さらジタバタ、あせっても仕方ない。 本番の試験で、結果を出すのみだ。 ふうと息を吐き落ち着かせる。 参考書を閉じ、一番上の鍵付きの引き出しを開ける。 そこにはカラフルな色した小物が整然と並んでいた。 引き出しの中には大切なもの。 お気に入りの漫画雑誌の付録のファイル。 ハムスターの形をした小さな消しゴム。 お菓子のおまけのシール。 浩にいからもらったものもここにある。 小学校の時の修学旅行のおみやげでもらったキーホルダー。 それから・・・。 わたしは膨みのある水色の封筒を取り出した。 中にあるのは浩にいの中学生の時着ていた制服のボタン一揃い。 もちろん好きな人にあげるということ意識したものではない。 中学校の制服の替えボタンに使ってと、渡されたものだった。 これをもらったのはわたしがまだ小学生4年の頃だった。 その時は卒業した後にもらうボタンの意味も知らなかった。 高校の制服のボタンは右奥にある白い封筒の中にある。 これをもらった時はおととし。 何かに使えるかもと渡された。 さすがにその時には卒業式にもらうボタンがどういう意味を持つのか分っていたから、 浩にいにそんな気持ちがなくても、すごくうれしかった。 そしてその高校、上北園高校が、わたしの第一希望の高校になった。 わたしは水色の封筒からボタンを取り出し机の上に並べた。 ブレザーについていたボタンが大きめのボタンが二つと、 袖についていた小さいボタンが4つ。 ボタンは金色で、蔦の葉っぱをモチーフにした校章と同じデザインをしている。 わたしの制服のボタンと同じもの。 ただこのボタンが過ごしていた時間が違うけれど。 わたしの知らない浩にいの学生の時の出来事を、側でずっと見ていたボタン。 ボタンを見ていると、朝から感じていた気持ちとは違う、ざわめきが胸に起こる。 なんだろうなこの気持ち。 寂しい? 愛しい? 入り混じった気持ち。 人差し指の腹でひとつ一つボタンを撫でてみる。 ボタンの表面の凸凹が指の腹を刺激して少しこそばゆい。 ああ、そうだ。 なんで今頃、気がついたんだろう。 制服のボタン、浩にいのに換えてたら、ずっといっしょに過ごせていたやん。 ボタンが浩にいの代わりで。 わたしの中学校生活の時間を共有できたのに。 ううん、今からでも遅くない。 一緒に試験受けて、見守っていてね、ボタンさん。 わたしは裁縫箱を取り出した。 クローゼットに仕舞っていたブレザーを取り出すとさっそく作業にかかる。 胸に一番近いところだと第一だけど、やっぱり替えるなら第二ボタンがいいかな。 第二ボタンって特別な意味があったっけ。 大切なあなたとか・・・。 「ちー?」 不意に浩にいの声が背後でした。 (続く) |