義姉(4) 俺は自分に足りないものを真剣に考えた。 勉強に、体力、精神。 どれも考えるまでもなく足りないことだらけ。 体調は相変わらずすぐには戻らない。 けれど、まずは自分にできることから。 やがて深月は高校、俺は中学生になった。 その頃には腹痛は治まってきていたが、代わりに成長痛が酷くなった。 夜中は、その痛さで目が覚める。 痛む手足は酷く不快だ。 けれど気分が落ち込んだり高ぶったりはない。 以前よりもぐっと落ち着いてきていた。 もちろん、ぐっすりと眠れる日もあり、深月に抱きしめてもらう回数はめっきりと減った。 1年から2年にかけてが一番身長が伸びていたと思う。 身長とともに食欲も増した。 そして喉仏が出て、高音の声が低音へと変わる。 俺の体は細いながらも背が高くなり、それなりに男っぽく変わって行った。 学校での同級生たちの様子も変わってきた。 1年の時は、小学校の時の延長のような雰囲気だった。 表立った悪意は見えない。 けれど同級生たちは相変わらず俺に積極的な接触したりはしなかった。 俺の無愛想も変わってはいなかったけれど。 ところが2年になると、 ちょっとした隔たりはあるものの、どこか好意的な空気を感じた。 俺はそれなりに人目を引くようだ。 自分の見た目を気もとめていなかったが、俗にいう美少年の部類に入っていたよう。 それに加えて、学年5番以内に入る成績。 成績は、深月に認めてもらうためにした、俺なりの努力の結果でしかないのだが。 小学校の頃は悪意を向けられていたのに、不思議なものだ。 いや俺自身、変わったのだろう。 同級生たちも以前とは変わってきていたのかもしれない。 もちろん人の基本的なもの、根底にあるものは同じなのかもしれないけれど。 ただ見る角度を変えれば違う解答が複数導き出されることがある。 たとえば立方体。 展開すれば、正方形とは違う形となり(正方形を連ねた集合体ではあるものの)、 その数は11通りある。 もとはひとつの形でも複数の解答がある。 それが人ならどうなるのか。 それこそ、その解答は未知数。 人は変われる。 「あきらめ」を知る俺はいる。 けれど何事にも「あきらめていた」昔の俺はもういない。 深月に男として認めてもらう努力は変わらずした。 年下の俺はそれだけでもハンデだ。 深月の周りには同じ年や年上の男子がごろごろいるだろう。 その男子たちに負けないよう、 深月の目が他にいかないよう、精一杯自分にできることをする。 2年から3年に上がると、深月は俺を抱きしめることはしなくなった。 俺は言いようのない不安に陥った。 俺の知らないところで深月に嫌われてしまっていたのではないかと恐れた。 それでも深月を「あきらめる」ことなどできない。 後で、深月が俺を男として意識しだしていたから態度が変わったのだと知ったが。 法律を学びたい、その職につきたいと思ったのもこの頃。 きっかけは、ネットで義兄弟姉妹同士の結婚ができるかどうか、検索したとき。 民法724条の1項、 「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。 但し、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない」 この法律を目にしたとき、俺は素直に喜んだ。 実際、義理の兄弟姉妹で結婚しました、という、報告のブログを読んだ訳ではないけれど、 俺の気持ちを十分すぎるくらい後押ししてくれるものだった。 俺が深月を一人の女性として求めることに何の障害もないのだ。 (続く) |