クリスマスはきらいじゃないけれど・・・


今日はイブ。

サークルの子たちとのコンパの日だ。

クリスマスにフリーな子たちで集まって騒ごうということなって、

それが交流している他大学も巻き込んでなんだけど・・・。

「・・・インフルエンザ、お大事にしてね。」

そう言うと、携帯を切る

もう、何件目だろうか。

いざ蓋をあけると病欠がぞろぞろ。

・・・まあ、いいんだけどね。

結局来たのは、わたしと同じ2回生の沙織と後輩の風花の合わせて3人。

中止でもよかったくらいじゃない、はじめ予定した人数思えば。

「はあ、3人じゃお食事会よね、これじゃ・・・。」

沙織がふうと息を吐いてからグラスに注がれていたビールを飲む。

やっぱりインフルエンザがサークルに蔓延した理由を感づいているのね。

「まあまあ、女だけでクリスマスするのもいいもんよ。」

「・・・うん、そういうのもありだよね。」

風花が、おずおずと相槌をうつ。

「ああ、でも、わびしい。」

沙織、荒れてる。

仕方ないのかも、篠崎さんのうわさ、聞いてるから。

うーん、他のメンバーにも言えるけど、

一旦はコンパの約束したのだから、それを守るのが道義だと思うよ。

いくらクリスマスといえど・・・。



居酒屋でると、雪こそ降っていないけれど外気はよく冷えている。

吐いてる白い息が、アルコールで温まった体の熱まで持っていきそう。

わたしは家へ急いだ。

「義姉ちゃん、遅い!」

義弟の聡くんが、玄関で仁王立ちになってわたしを迎えた。

聡くんは、義母の連れ子で高校2年生。

お父さんが再婚したのは、およそ5年前。

そのときわたしが中3で、聡くんはまだ小学校に行ってた。

「ごめん、遅かった?」

腕時計を見ると午後10時半すぎ。

「いや、ダメ、9時には帰らなきゃ。」

ああ、聡くん、相当怒ってる。

「・・・義姉ちゃんは、ほんとにお人良しすぎる。」

「・・・ごめん。」

聡くんは、ふっと真顔になった。

そして手をのばしてわたしの手のひらを握る。

「・・・俺が待ってるのに。」

聡くんがわたしの手をひっぱった。

わたしの肩にあごをのせ、きつく抱きしめる。

「・・・ここ玄関だし、それにおとうさんたちに気づかれる、まずいよ。」

「大丈夫、義父さんは、忘年会でまだだし、かあさんは早々と寝たし。

それにしても・・・」

聡くんの右手がわたしの頭の後ろに回り、髪をやんわりと弄ぶ。

「コンパの約束したからって、義理堅いにもほどがあるよ。」

わたしと聡くん、お互いの気持ちが通じたのはここ最近のこと。

でも、わたしは今日は先に約束していたコンパに行くことを選んだのだ。

「・・・ごめんね。」

「・・・まあ、義理に篤いところが義姉ちゃんのいいところなんだけれど・・・。

コンパは今回だけ、もう許さないからね。」

聡くんが、耳に唇を寄せてくる。

「・・・深月。」

わたしの名前を低い声で小さく囁く。

だめだって、その声弱い。

わたしの体は電流が走ったみたいにぴくんと動く。

聡くんは肩に乗せていた顔を離して向き直った。

そして再びゆっくりと近づいた。

キスされる、そう感じてわたしは目をつむった。

その瞬間を計ったように、玄関の扉が勢いよく開いた。

「おーい、ただいま、ああ?」

お、おとうさん!

唇がつくかつかないか、ぎりぎりのところで、わたしたちは離れた。

「おお、二人で仲良くお出迎えか、いやー、うれしいねえー。」

おとうさんは、にまにまと赤ら顔。

うわ、もしかしてわたしたちのこと感づいちゃった?

いや違う。

これは酔ってる。

意味もなく、にこにこしてるのが、酔ったおとうさんの癖だ。

しかも、最上級の酔いではない?

「そだ、ビンゴでケーキ当たったんだぞ、食べような。」

手に持った、大きなケーキの箱を差し出す。

夜の11時近くに5号サイズのホールのケーキを食べろと、それは無茶です。

「ちーと、つまんでみたけど、うまかったよ。」

箱の中身を見ると、箱の端に寄っているケーキが4分の1ほどえぐれていた。

ちーとという量じゃないよ、これは。

・・・すごく嫌な予感がする。



予感は的中。

おとうさんは気分を悪くして、ゲーゲーし始めるし。

わたしと聡くんでおとうさんを介抱するはめに。

ちょっとダメよ、おとうさん。

あちゃー、トイレまで持たず、廊下に吐いちゃったよ。

すっぱい匂いがたちまち広がりだす。

おとうさんの騒ぎをよそに、お義母さんはすやすや眠り続けてるし。

さすがこの親父と結婚した人だと、つくづく感心した。

聡くんと目を合わせてお互いに大きなため息が出た。

ある意味にぎやかになったクリスマスの日をすごす。



まあ、嫌いではないんだけどね、クリスマスの日は。

でも、なんだかなあ・・・。(終)



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