inserted by FC2 system




蝉 8月10日 曇り


昼を過ぎて遊びに来たちーと一緒に、アイスを買いに商店街へ行った。

曇り空とはいえ、外は暑い。

朝から鳴いていた蝉は、昼にはぱったりと鳴きやんでいた。


途中にある公園に来るとちーが大きな木の側で足を止めた。

そしてその木を見上げている。


何かいるの? と聞くと、木の上の方を指差す。

そこには蝉が数匹いた。

「蝉、鳴かないね?」

ちーは不思議そうに見ている。

「お昼は暑いから一休みしているんだよ。」

とぼくは答えた。

「そうなの?」

ちーは小首を傾げてからまた木を見上げていた。

それから、「わかった」と満足そうに笑みを浮かべる。

何が分かったのと言うと、人差し指を立てて口元に持って行き、

しーっと言ってから、内緒話をするように小さな声で話した。

「蝉さん今日も早起きしすぎたから眠いよね。

だから木の上で一休みしてるんだ。

静かにしてゆっくり寝てもらおう?」

そう言ってから、ちーはスローモーションのように、ゆっくり足を進めて歩き出した。

ぼくもちーの真似して歩いみた。


目当てのサイダーのアイスバーを買ってから、来た道を戻る。

アイスが溶けるからと帰りは早足だ。

でも公園近くに来るとまたスローモーションの歩きをした。

ぼくもちーに合わせてスローモーション。

ちりちり照る夏の日差しの下を、時間にスローモーションの魔法をかけたみたい。


でも時間の魔法もアイスには効かない。

家に戻った時には、アイスは溶けかかっていた。

小皿にアイスを乗せながら食べた。


ぼくはカチコチのアイスより、溶けかけのこのアイスの方がおいしいと思った。


*****************************************************************


せみ 8がつ19にち はれ


ひるすぎに、ひろにいちゃんのいえに行った。

そして大すきなアイスバーをかいに、おにいちゃんといっしょにお店に行く。

とちゅうのこうえんをとおるとき、道ろにせみがしんでいるのがみえた。

一ぴきだけでなかった。

何ひきもいる。

みんなおなかをむけてひっくりかえっている。


「クマゼミも、おわりみたいだね。」

ひろにいちゃんがせみを見ながらいった。

「・・・ああ、だけど、けっこんしてたまごをうんでいるから、

またうまれくるよ。せみにとってはそれがのぞみだから。」

「のぞみ?」ってわたしがまたきくと、

「のぞみ、ねがいってことかな?」といった。


けっこんしてたまごをうむ。

せみもおとうさんおかあさんみたいにけっこんする。


同じとしにうまれるせみはとしも同じ。

みんな同じとしのせみとであう。


せみでなくてよかったとおもう。

せみだったら、としのちがうひろにいちゃんにあえない。


なんだかとてもかなしい。


わたしはしんでいるせみをまた見た。

その中の一ぴきのあしがうごいていた。

わたしはしゃがんでひっくりかえっているそのせみを、

せなかがうえになるようにかえした。


「ちょっとはせみさん、らくかな?」っておにいちゃんにきいたら、

へんじのかわりにあたまをなでた。






日常(千鶴、中学校生頃)
6畳の眠り姫
ラベンダーと眠り姫
手を繋いで、変わっていくもの変わらないもの

日常(千鶴高校生頃)
登校
問題

日常番外(小学生頃)
貯金箱
お祭り
大掃除
おかえり、ただいま()(
思い出

トップ




ホームへ