日差しに微笑み 6畳の眠り姫 浩にいの部屋。気軽に来ていたこの部屋、いつからだろうか。 ドアノブを握るとき、深く息を飲み込んで踊りだしている心臓の鼓動を沈めようと努めたのは。 体の底から零れだす熱を感じたのは。 浩にいちゃんは5歳年上で20歳の大学生。わたしの隣の家に住んでいる。 わたしは中学3年生。高校受験の勉強を見てもらうために、浩にいの家へ来ている。 もともと弘にいの家にはお母さん通しが仲良しなこともあって、小さい頃から何かとお邪魔していた。 わたしはこの浩にいの部屋が好き。 小学校の頃は、学校から帰ってくる浩にいを驚かそうと、勝手に部屋に入って待ち構えていたものだ。 天然の生成り色した勉強机に漫画の文庫本と粘土で作られた歪な形の貯金箱がちょこんと置いてあった。 その勉強机の隣に青い布団が敷かれたベッド。 浩にいちゃんのベッドは、ほんとに気持ちよい。 外によく干されているみたいでほわほわとしていて温かい。 そしてほんのり柑橘系の匂い。 浩にいの匂い。 ダブルの大きな布団を頭から被ると居心地よくて落ち着いた。 そしていつのまにやら眠ってしまう。 ふと目が覚めると、口の端を上げた、でもあきれた様子の浩にいの顔がいつもあった。 もうすぐだよね、帰ってくるの。 ベッドにもたれかかる。 ベッドの布団はブルーの色は変わらないけれど2度ほど代替わりしている。 ちょっとくらいいいよね。 わたしはベッドに横たわり布団を被る。 代替わりしていても柑橘系の匂いは変わらない。 ********************************************************** 「また寝てる・・・。」 僕はふうとため息をついた。 隣の家の女の子、千鶴。たいがい寝顔で出迎えてくれる。 「ちー、起きて。」 僕は千鶴を覗き込んだ。 千鶴はうーんという声をひとつしたが、起きる気配はない。 長いまつげに、赤いほほ。 あどけない顔は幼子のまま、つくづくかわいい女の子だと思う。 千鶴が寝返りを打った。 ごろりと横になると白いうなじが目に留まる。 どくっと僕の心臓がうつ。 幼子だと思っていた千鶴は、女の色香をほんのりと覗かせていた。 僕は胸の鼓動を落ち着かせようと努めた。 あと5分だけ寝かせてみるか・・・ すやすや寝息をたてる眠り姫の寝顔を見ながら、心癒されていよう。 日常(千鶴中学生頃) ラベンダーと眠り姫 手を繋いで、変わっていくもの変わらないもの 日常(千鶴高校生頃) 登校 問題 日常番外(過去、小学生頃) 貯金箱 お祭り 蝉 大掃除 おかえり、ただいま(前)(後) 思い出 トップへ |