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手を繋いで、変わっていくもの変わらないもの



初めて浩にいと手を繋いで歩いたのは、いつだっただろうか。

気がついたら、いつも手を繋いで歩いていた。

それがごく自然のことで不思議でもなんでもなかった。

小学生になって浩にいと一緒に学校へ通った。

浩にいは見上げるくらい背が高くて大きかった。

けれど同じ学校に通う時間は短くて、わたしが2年生になると浩にいは中学1年生。

ブレザーの制服がずっと大人びて見えた。

それでも浩にいは手をつないで一緒に歩いてくれた。

その時は何も考えずに手を繋いでいた。

ごく自然に手を出して繋いでいたはずなのに。

今はわたしからは気軽に浩にいと手を繋げないでいる。



「なに? ちーため息ついて。」

「ううん、ほんとに良かったの? 一緒に来てもらって。」

「なんで? 遠慮することないよ。」

浩にいは、わたしの買い物につきあってくれた。

そしていつもと変わらない調子で話しかけてくれる。

わたしはそんな浩にいについ甘えてしまう。

「それに学校が始まると忙しくなるだろう。

気にしないで、ぼくも出かけるのは楽しいし。」

日曜の繁華街は人が溢れ活気があった。

浩にいはわたしの手を躊躇なく握る。

浩にいは車道側、わたしは歩道の内側を手を繋いだまま歩き出す。

わたしからは繋げない手、でも浩にいは容易く繋ぐ。

そういうところは変わっていない。

でも繋いでいる手の感触は変わった。

わたしの手のひらを包むように握った大きくてがっしりした浩にいの手。

指が長く節の目立つ指。

大人の男の人の手だ。

わたしの手も随分大きくなってきた。

けれど丸みを帯びぽっちゃりした指は変わらないまま。



突然強風が吹きつけてきた。

あまりの勢いに足を止め目を閉ざす。

風は容赦なくわたしの髪をばさばさと乱す。

風が止み目を開けた。

心配そうにわたしを見る浩にいの目と合った。

「すごい風だったよね、髪ぐしゃぐしゃになってる。」

浩にいの大きな手のひらがわたしの頭に触れる。

指を軽く髪に入れ、上から下へとゆっくり梳いて整えてくれた。



ほんとうに優しい浩にい。

浩にいの優しさは今も昔も変わらないまま。

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ちーと繁華街の雑踏の中、手を繋ぐ。

そういえば1年間だけ、同じ小学校に通っていた時があった。

あの時はぼくは6年、ちーは1年生で。

その時もこうして手を繋いで学校に登校していた。

しかし一緒に同じ学校へ通えたのは僅かに1年間だけだったけれど。

ぼくたちの小学校は最高学年である6年生が新1年生のお世話をするのが通例だった。

お世話するのは身体測定、体力測定、水泳など。

ぼくも新1年のお世話をした。

でもその相手の1年生はちーではなかった。

ちーのお世話をしていたのは別の6年の女子。

ぼくは自分の世話をする1年生の男子と手を繋ぐ。

繋ぐ手はちーと同じ1年生のもの、でもぼくの気分は落ち着かない。

男の子のお世話に集中しなくちゃと思いながらも、

少し後ろで離れて歩いているちーたちの様子が気になって仕方ない。

何度も振り返って見ていた。

それまで、ちーは妹みたいなものだと思っていた。

でもちーはぼくの妹ではなかった。



成長した今、ぼくはちーと手を繋ぐのに理由を作っている。

今は人が多いこの雑踏の中ではぐれないためにと繋いでいる。

でないと、さりげなく手を繋ぐことなどできないから。


突然強い風が吹き付ける。

春近くなるとよくある突風だ。

髪をぐしゃぐしゃ乱していく。

突風が止んだ後、ぼくはちーの髪を梳いた。

肩まで伸ばしたさらさらの髪は滑らかで指どおりが良かった。

「浩にいの髪もぐしゃぐしゃになってる。」

ちーの手がぼくの頭に伸びる。

ぼくはかがんでちーが触れ易いように頭を下げた。

柔らかい指がぼくの髪を撫でる。

こめかみに少し触れた指先がこそばゆい。

けれど心の奥がほんのりと暖かくなる。



再びちーと手を繋いで歩き出す。

立ち止まった先に見えるショーウィンドーに映っている姿を見てみる。

ぼくの肩とちょうど同じ高さにあるちーの頭。

身長差は一緒に通った小学校の頃と変わらないかもしれない。

ただ体つきは違う。

お互い随分背が伸びたものだ。

ロングのクリーム色したニットのジャケット、ジーンズを穿いているすんなりとした足。

ちーの体は腰がくびれてきているのが見てとれた。

少女から大人へとなっていくちー。



「このケーキおいしそうだよね。」

ちーはショーウィンドーの一角を指さす。

「そうだね、喉も渇いてきたし、ちょっと入ってみようか。」

「わあ、やった、浩にい。」

あどけなくくったくのないちーの笑顔が返ってきた。



ちーにある幼さ。

でもそれも大人となっていくちーが、やがては上書きしていくのだろう。

ちーはこれからもどんどん女性らしく変わっていく、外見も内面とも。

けれどぼくはどんなにちーが変わっていっても見続けているから。

ずっとこの気持ちは変わらない。



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