思い煩うホワイトデー(2) 画廊近くのレストラン、下畑さんと向かい合わせでランチを食べる。 「今日は来て頂いてありがとうございました。」 わたしは改めて下畑さんにお礼を言った。 「ううん、ぼくも見に行きたかったし。学生の頃、思い出したよ。」 「下畑さんの学生の頃? 絵を描いていたんですか?」 「ううん、ぼくは帰宅部だったけどね。 高校は家より遠いところ通っていて、片道2時間かかってた。 入学当初は入ろうと思ってたけど、結局やめた。 大学も同じ理由でサークルには入らなかった。」 下畑さんが当時のことを思い出しているのだろうか。 目を細めて懐かしそうに話す。 学生時代の下畑さん、どんなだったのだろう。 今と同じように優しくて話やすい感じかな。 ビジュアルも悪くないから、それなりにモテそう。 後輩から慕われてたりなんかして。 下畑さんの昔を想像すると、ちょっと複雑な気分がしてきた。 「あの、さっき会った越智君のことだけど、風花ちゃん、以前に何かあったのかな?」 「え、ええと、何かあったという訳ではないんですが。」 「そう? 風花ちゃん、彼を見るのがつらそうな感じしたから。」 下畑さんが眉をひそめてわたしを見る。 つらいというわけではないけれど、越智君を見るとどうしても思い出してしまう。 弱い自分を。 それを下畑さんに伝えるべきかどうか、わたしは考えあぐねた。 「言いにくかったら無理にとは言わないけれど、一人で抱え込まないでね。」 「すみません。」 ざわめく心を落ち着かせようと、コップの水を一口飲んだ。 「ああ、ごめんね、風花ちゃん、そんな顔させるつもりなかったんだけど、大丈夫?」 塞いでいた気分が顔に出ていたみたい。 できるだけなんでもない風に装いながら「大丈夫です。」と下畑さんに答えた。 「風花ちゃんは、今日これからどうするの?」 「部展は5時に終わるので絵を持って帰ってから、打ち上げ行くことになると思います。 3校合同でするとか。」 「合同って他の大学と?」 「はい、今この近辺の画廊で部展していたS大とT女子と。」 下畑さんの片方の眉が上がりいぶかしげな表情になった。 「それ、何時くらいに終わる?」 「9時か10時くらいだと思うのですが。詳しいことはまだ聞いてないので。」 「そうか。5時は無理だけど、打ち上げの帰りは送るよ。 終わったらメールしてきて。」 「えっ、いえ悪いです。」 「いいから、何かあったら大変だからね。」 「あ、それならお兄ちゃんに頼んでみます。」 「ああ、彼なら会社終わった後、ぼくの従兄妹と約束しているみたいで無理だと思うよ、 だからね。」 有無を言わさない下畑さんの口調に「お願いします。」と頭を下げてしまった。 そこまで下畑さんに甘えてしまってよいのだろうか・・・。 下畑さんを見ると何か考えているみたい。 心なしか下畑さんの雰囲気がいつもと違うみたいに思う。 いつものふんわり優しそうな雰囲気は変わらない。 けれど微妙なんだけど何かが違うような。 それにしてもお兄ちゃん、仕事の後、ディナーでデートですか? 日ごろの様子で、順調そうかなと思ってたけど、あらためて納得。 (続く) |